ねこむら日誌

体調不良やら育てている植物のハナシ。

ワーキングメモリと発達障害

発達障害のことを調べていると「ワーキングメモリ(作業記憶)」という言葉を見かけます。今回は、それが何なのか?どういうときに使うものなのか?ということを少し考えていきたいと思います。

 

 

記憶の種類

「記憶力が良い」なんて言ったりしますが、その記憶力とは一体どんな能力なんでしょうか?ワーキングメモリについて知る前に、すこし記憶力全体の話をしたいと思います。

記憶の3段階

人は、何かを覚えるときに3つの段階を踏みます。今回は、記憶を「物を倉庫にしまう」という作業に例えて説明してみようと思います。

まず最初にする作業は「記銘(きめい)」と呼ばれています。これは、新しく出会ったものを自分の中に取り込むこと。最近では「符号化」という言い方もあります。新しく来た荷物に、簡単なラベルを付けて倉庫入口に一旦置いている状態です。

次に、その荷物を倉庫の棚まで持っていかなければなりません。そのために、その記憶する作業を何度も繰り返す必要があります。勉強で暗記をするときも、完全に覚えるまでは何度も繰り返し覚えますよね。そして、頭の中に定着した状態が「保持」です。

最後に、記憶は倉庫にしまっただけでは役立ちません必要なときに、必要な記憶を倉庫からうまく出してくる必要があります。これが「想起」という作業です。

あまり意識はしていないと思いますが、これが一般的な「記憶のしかた」です。

記憶 3段階

記憶の3段階

短期記憶と長期記憶

記憶力と言っても、その力は3段階に分かれているということが分かりました。ところで、先ほどの例えで「倉庫入口に一旦置いた荷物」は全て倉庫に入れるのでしょうか?実は、倉庫に入れるまでもなく使ってしまう荷物がたくさんあります。

この、入口に置いただけで間もなく使ってしまう荷物が「短期記憶」。倉庫の棚に並んでいる荷物が「長期記憶」です。

具体的には「ソース持ってきて」と言われて台所から持ってくるときの「ソースだな」というのは短期記憶です。その場だけ覚えておけば良い記憶ですね。ソースを相手に渡したら、もう覚えておく必要もありません。

一方の長期記憶は、覚えたり経験してから数日(ときには数年)経っても思い出すことができます。覚える過程で分類別に分けたり取り出しやすいようにラベルを張ったりするので、いろいろな種類があります。

まず、記憶として意識されることが多いのは宣言的記憶言語化できる記憶)」でしょう。その中には、勉強や経験などによって貯えた「意味記憶(知識)」と過去の実体験である「エピソード記憶」があります。違いが分かりにくいかもしれませんが、エピソード記憶というのは「あのとき父がこう言った」というような記憶です。思い出に近いかもしれませんね。

そして、同じ長期記憶の中でも言語化しにくいのが「手続き記憶」です。これは、言語ではなく感覚で覚えた記憶。たとえば、自転車の乗り方などがこれにあたります。

短期記憶 長期記憶

短期記憶と長期記憶

ワーキングメモリとは?

どんな時に使う記憶か

ここまで長かったですが、今回の本題である「ワーキングメモリ」は上で説明した短期記憶の一種だと言われています。ワーキング(作業)メモリ(記憶)というだけあって、僕たちが日々こなしている作業にはワーキングメモリが欠かせません。

先ほどはソースの話をしましたが、もっと日常的に

・相手が言った言葉を紙にメモする
・レジで「〇〇円になります」といわれて財布から出す
・A+B=Cだと頭の中で計算する

といった場面で使っている記憶力です。そんなに記憶力バツグンの人でなくとも、自然にできている人が多いのではないかと思います。

ところが、発達障害を抱える人の多くはワーキングメモリーの容量が少なめのようです。あまりに自然に使っていると、容量不足の場合に何が起きるか想像がつかないかもしれません。

容量不足で何が起きるか

ソコンやスマホも、一度にたくさんのアプリを開くとフリーズすることがありますよね。それと同じで、ワーキングメモリの容量が少ないと同時にできる作業が少なくなります

例えば、先ほどワーキングメモリを使う場面として3つの例を出しました。

まず「人の話を聞いてメモする」というのは ①聞き取る ②理解する ③要約する ④書く と少なくとも4つのことを同時にしているわけです。さらに⑤相槌を打つ ⑥たまに相手からの問いに返答する なんて作業が必要になることもあります。

次に「レジでの会計」です。ここには①聞き取る ②金額を覚えておく ③その金額を財布から出す という3つの作業が必要です。しかも、お金を選んでいる途中で「温めますか」「お箸は何膳付けますか」というさらなる試練(店員さんからの質問)がやってきたりします。

僕は、この3つを終えると「ひと仕事終えた」と言うような感じになってしまい④お釣りを受け取る ⑤お釣りをしまう ⑥商品を受け取るのどれかを忘れることがよくあります。ちなみに、聞き取りがとても苦手なので店員さんの問いには大抵いつも見当で答えます。(そのせいで、よく要らない箸が付いていたりします)

そして、暗算。これは、①言われた数字を覚えておく ②足すのか引くのか覚えておく ③頭の中で数字を操作する ができないと答えが出せません。学校では「筆算するな」と言われることは滅多にありませんから、僕は算数や数学は不得意ではありませんでした。全部ひたすら書いて解けば済んだからです。でも、発達障害者支援センターで検査を受けたときに自分が暗算が全然できないと気付きました。

こんな風に、日常的な動作でも色々な作業が組み合わさっています。結構みんな、難しいことをこなしながら生きているということですね。

あと1つ、ワーキングメモリが不足していると周りの刺激にも弱くなりがち。何かをしている途中別の刺激が入ってくると、そちらの処理に容量を取られて本来の作業が滞ったりミスが増えます

勉強している横で面白いアニメが放送されているようなものと思ってもらえれば分かると思います。全然集中できないですよね?ただ、その刺激はアニメのように多くの人が気になるものでなく、とても小さな音や光だったりするんです。

 

ワーキングメモリ不足の対策

不足していたらどうしようもないんでしょうか?できないことが増えてしまうんでしょうか?たしかに、容量が大きい人よりは器用にはこなせません。でも、僕自身もすでに30年近く容量不足のままやってきました。なので、自分なりの方法が習慣づいていて大した問題になっていないこともあります

まず自分の頭だけで処理するはずの作業外に出してしまうと負担が減ります。たとえば、覚えていられないな書いておけば良いんです。時間を気にするのが難しければ、タイマーをかければ良いんです。そうすることで、それ以外の作業に使える容量が増えます。

あとは、同じ数のタスク1つ1つが軽いと処理できたりします。なので、聞き取りを補助する手段を考えてもいいですね。あとは、(年齢や環境にもよりますが)お金を選んだり財布にしまう手間を省いてキャッシュレスにするというのも1つの方法かもしれません。

そして、やるべき作業以外の刺激は可能な限りシャットアウト。光対策にカーテンを閉めてもいいし、音が多い場所ではノイズキャンセリングヘッドホンや耳栓が使えます。

 

 自分に合う道具もうまく見つけつつ、少し楽してみるのもいいかもしれません。